冷えた空気が、逆に心地良く感じ始めたのは、のんびりと歩き続けて、近所の川原に差し掛かった頃だ。










細い枝を寒そうに伸ばす桜が連なるその川原の道は、春になれば、美しい桜吹雪に包まれる。




冬の今季節は、桜は眠っているのだろう。




彼らの囁きが無い川原は、静寂だ。









立ち止まり、川面に視線を向ける。







静かな水の流れの中、月が輪郭を歪め、姿をたゆたわせている。



泳いでいる様だ。








川原に降り、夜露に湿り始めた草の上に腰を降ろす。





水辺独特の冴えた冷たい空気が、厚いコートの中に染み込んでくる。







ゆっくりと、瞳を閉じた。






閉ざされた視界、クリスタルグラスが共鳴するかの様な、涼やかな川のせせらぎだけが耳に響いてきた。









ああ、気持ちがいいな。


まさに月光浴だ。



……瑞江さんも、誘えば良かったかな。












「……新庄先生?」









突然、静寂を震わせる呼び掛け声。




僕は、閉じていた瞼を上げる。







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