佐紀と祐太の付き合いは、幼いものだった。

互いに、相手の事は、好きなのだけれど、
付き合うと言っても、どうしていいか、
わからなかった。

だから、たまに教室で、
話をするくらいだった。

部活があるから、一緒に帰る事も出来ない。

朝は、早朝ランニングがある。

休みの日は、お互いの部活がある。

夜はというと、2人は、進学コースにいて、
宿題が、ハンパなかった。

だから、ほとんど、進展もなく、
“付き合っているのに片想い”状態だった。



たまに休みが合うと、自転車で遠出したり、
河原を歩きながら話すという、
極めて健全な付き合いだった。

それでも佐紀は、幸せだった。

会っている時は、楽しいし、
祐太の事を考えている時の、フワフワ感も、
好きだった。

スポーツをやっていると、
苦しい練習に、耐えなければならないから、
ガマンすることには、慣れている。

そして、出来る範囲に、全力を注ぐのが、
スポーツ・マンなのだ。



しかし佐紀は、祐太と会って、
楽しい時間を過ごした後、いつも、
不安感が、湧き上がっていた。


“こんな事をしていて、いいのだろうか?”


そう、思ってしまうのだった。

付き合いは、節度を持って、やっている。

部活も勉強も、手を抜いたりしていない。

だから、何の差支えも無いのだけれど、
その不安感を、拭い去る事は出来なかった。