最後に三田は、ちょっと気になる事を、
坂井に、訊いてみた。


  「みんなには、坂井さんのこと、
   どう、言っておきましょうか?」


  「ああ、それか。

   “もう、とことん愛想がつきたから、
   見るのをやめた”とでも言ってくれ」


  「いや、しかし、それでは……」


  「その方が、あいつらも、発奮するし、
   結束も、固くなるだろう。

   これはワシの、“最後の強がり”と、
   思ってくれ。

   それと、こうも言ってくれ。

   “こんな前代未聞のチームは、
   知らん”とな」


  「前代未聞……、ですか」


  「ああ、前代未聞だ。
   あいつらは、いいぞ。

   今まで見たチームで、一番いいぞ。

   だからこそ、変なコーチに、
   任せたくないんだ。

   おっと、これは、言わないでくれよ」


  「はい、わかってます。
   じゃあ、そう、言っておきます。

   それでは、失礼します」


そう言って、三田は、店を出て行った。

その背中に、坂井は、声をかけた。


  「頼むぞ。あいつらを、頼むぞ」


三田は、前を向いたまま、うなずいて、
店を出た。


その、三田を見送る坂井の顔は、
安堵感と寂しさに、溢れていた。