甲陽高校、体育館。


今日も、坂井は、気合が入っていた。

しかし、今日の2年生は、
何か、おかしかった。

時々、散漫なプレーが見られるのである。

坂井は、なまじ、気合が入っているだけに、
少し、もどかしく思っていた。

そして、それが重なって、
次第に、イラついて行った。


特に、ミスを繰り返す友理に、
怒りが込み上げて来て、遂には、
ツカツカと、友理の前に行き、


  「何度言ったら、わかるんだ。
   この野郎」


と、怒りの形相で、手を振り上げた。

すると、友理が、


  「かんにん」


そう言って、両手で頭を抱え込み、
腰から、崩れ落ちた。

あわてて、佐紀が、走って来て、
坂井と友理の間に立った。


  「コーチ、やめてください」



別に坂井は、殴ろうとした訳ではなかった。

昔はよく、殴っていたが、
今は、ちょっとした暴力でも、
部の存続が、危うくなる。

それに、年をとって、
性格も、かなり丸くなってきた。

ただ、意気込みの分だけ、怒りも大きく、
ついカッとなり、手を上げてしまったのだ。


坂井は、佐紀の、凛とした態度に、
行き場を無くした、振り上げた手を下ろし、


  「おっ、おお、
   ちゃんと、言った通り、やれっ」


そう言って、サイドへ出て行った。