千奈の母が、前に来て、皆にお辞儀をした。
「皆さん、今までいろいろと、
ありがとうございました。
千奈は、“辛いから黙って行く”と
言ったんですけど、
どうしても、皆さんに
お礼が言いたくて…」
千奈は、母の横で、下を向いて立っていた。
母の声が、震えてくる。
「家の都合で、この子に
辛い思いをさせてしまって……。
兄は、やけっぱちに
なってしまいましたが
この子には、バスケットがあったので
救われました。
皆さんと一緒に、楽しくバスケットが
出来たようで……」
千奈の母は、涙声になって、最後は、
言葉にならなかった。
千奈は下を向いたままで、
皆を見ようとはしなかった。

