インターハイ、2日目。


佐紀達は、体育館に入り、
更衣室へ行こうと、通路を歩いていると、
後ろから声がした


  「友理! あんた、友理やろっ?」


友理が振り返り、男を見ると立ち止まった。


  「あっ、コーチ」


それは、見覚えのある、コーチの顔だった。

佐紀たちは、そのまま歩いて行って、
少し離れて、2人の様子を見ることにした。


男は、友理と判った途端、
馴れ馴れしくなって


  「やっぱり、お前か。
   いや、教え子の試合を見に来てな。

   昨日、試合、見てたら、
   えろうデカいのがいてるから
   誰やろ、思ぅたら、
   お前やったんや。

   お前、ええ選手になったなあ」


  「ありがとうございます」


友理にとって、このコーチは、
怖いコーチだった。

当時の恐ろしさがよみがえって来て、
友理は、動けなかった。


  「こんなことなら、お前にもっと、
   目ぇかけてやりゃ良かったわ。

   そうすりゃ俺も、もう少し、
   ハクがついたんやけどなあ」


男の言葉を友理は、黙ったまま聞いていた。

そして、次第にその呪縛が、
解けて行くのを感じた。


“なぁんや、こんな人間やったんや“


そう思うと、逆に、このコーチが、
哀れにも思えてきた。

するともう、コーチの声は、
友理に届かなくなった