三田は、そのまま、ベンチに座り、
冷静に、戦局を見守っていた。
しかし、三田の頭の中には、
勝ち負けは無かった。
三田は、以前、この事について、
考えた事があった。
高校男子を見ている時は、負けると、
凄く、悔しかったはずである。
あの頃は、勝つことに、全力を注いできた。
勝つことが、全てだった。
それがなぜか、勝ち負けに、
淡泊になってしまっている。
一体、いつからだろうと考えた時、
一つのことに、行き当たった。
“そうだ、こいつらと会ってからだ”
最初は、200点も取られて
負けるようなチームだったが、
勝ち負けに関係なく、必死で走る姿を見て、
勝敗は、単なる、数字の結果だと、
思うようになった。
“こいつらは、必死なんだけど、
嬉々として、走っている”
恐らく佐紀達は、勝つためではなく、
得点を入れる事、失点を防ぐ事という、
本来のゲームの原点の事を、一生懸命、
やっているんだろうと、思った。
“あの得点は、外で見ている者のために
あるのであって、
中でプレイする者には、関係ない”
そう思った時、三田の頭の中から、
勝ち負けが、消えた。
しかし、勝負はまた、別である。
勝負には、全力で、当らなければならない。
“俺の役割は、試合中、
次から次へと出てくる勝負に、
全力で当たれる環境を
作ってやる事だ”
そう、悟ったのだった。
そして三田は、気がついた。
“もし、佐紀達と出会っていなかったら
こんな心境になっていただろうか。
そうか、俺も、佐紀達によって、
成長させられてるんだなあ”
そう思ったのだった。

