ベンチから引き揚げながら、板倉は、
“いい経験を、させてもらった”
そう思った。
板倉は、甲陽から、
“コーチとは、どうあるべきか”を、
教えられたような気がした。
偶然かも知れないが、甲陽は、
自分の意図を、見透かすような作戦を、
取って来た。
ここで初めて、自分が何をしてきたのか、
気がついた。
“俺は、自分の屈辱を晴らすため、
あいつらを利用していたのでは、
ないだろうか”
確かに、教えてきたことは、
間違いではなかった。
しかし、その動機に、個人的感情が
含まれている事に気付いて、
板倉は、自分を恥じた。
この“自分を恥じる”事も、
初めての経験であった。
今までなら、上手く行かない事に対して、
怒りで、怒鳴り散らしていたかもしれない。
“俺の言った事を、何でやらないんだ”と。
皆、一生懸命やっているのに、
ただ、出来ないという事にだけ執着して、
怒鳴っていただろう。
“俺は、自分の理論だけを信じて、
みんなを、見ていなかった”
板倉は、今日の試合を、振り返って、
皆の顔を、思い出していた。
辛そうな顔が、目に浮かぶ。
板倉は、驚いた。

