部活~ウチらバスケ部~高校編      ファイナル


ベンチから引き揚げながら、板倉は、


  “いい経験を、させてもらった”


そう思った。

板倉は、甲陽から、
“コーチとは、どうあるべきか”を、
教えられたような気がした。

偶然かも知れないが、甲陽は、
自分の意図を、見透かすような作戦を、
取って来た。

ここで初めて、自分が何をしてきたのか、
気がついた。


  “俺は、自分の屈辱を晴らすため、
   あいつらを利用していたのでは、
   ないだろうか”


確かに、教えてきたことは、
間違いではなかった。

しかし、その動機に、個人的感情が
含まれている事に気付いて、
板倉は、自分を恥じた。

この“自分を恥じる”事も、
初めての経験であった。

今までなら、上手く行かない事に対して、
怒りで、怒鳴り散らしていたかもしれない。

“俺の言った事を、何でやらないんだ”と。

皆、一生懸命やっているのに、
ただ、出来ないという事にだけ執着して、
怒鳴っていただろう。


  “俺は、自分の理論だけを信じて、
   みんなを、見ていなかった”



板倉は、今日の試合を、振り返って、
皆の顔を、思い出していた。

辛そうな顔が、目に浮かぶ。

板倉は、驚いた。