三者面談の前日。
夕食の時、母が桃子に、話しかける。
「明日、三者面談でしょ?
あんたの意見も、聞いとかなきゃね。
どうするの?」
「うん、就職しようかな、って」
「えっ、何で?」
「だって、ママ、一生懸命、仕事して、
高校まで、行かせてくれて……、
もう、充分だよ。
私が働いて、楽させてあげる」
「なにか、なりたいものは、無いの?」
「うん、無い事はないけど……」
「何なの?」
桃子は、言い難そうにしていたが、
何度か訊くと、やっと、言った。
「保母さん」
「じゃあ、なりなさいよ」
「でも、大学行ったりして、
また、お金、かかるし……」
すると母は、泣き始めた。
「あんたのためにすることは、
苦労じゃ、ないのよ。
それより、あんたが自分を殺して、
なりたくないモノになって、
後悔している顔を見る方が、
よっぽど、辛いわよ」
母は、鼻をすすりあげて、
「ママはね、あんたの生き生きとした、
姿を見るのが、生甲斐なの。
そのためだったら、いくらでも、
頑張れるわ。
だから、もっと、甘えてよ」
「でも……」
「あんたは、
あんたの夢を、目指してちょうだい」
しばらく考えていた桃子は、
「うん、わかった。
じゃあ、もう少しだけ。
その代り、保母さんになったら、
思いっきり、楽させてあげるから」
母も、その言葉に、ようやく、笑顔が戻った。
「ハハハ、
あてにしないで、待ってるわ」

