その日は
それからほとんど会話はなかった
ひょっとしたら、
臆病者のわしに
呆れ果てていたのかもしれん。
別れ際に
「また来週」
と言った春江は
まるで「さよなら」を
言っているかのように
その表情は精気を失っていた。
呼び止めることはできた。
今、声を張り上げれば
まだ間に合うはずだった。
だが、しなかった。
春江は一度も振り返ることなく
肩を落として歩いていく。
ひょっとしたら、
呼び止めるわしの言葉を待って
いたのかもしれん。
小さくなっていくその肩は
微かに震えて見えた。
だが、できなかった。
わしにはわかっていた。
これが
最後になるやもしれん、と…。
きっと後悔するに違いない、と…
わかっていながら、
腹をくくりきれなかった…。
ただただスケッチブックを
握りしめるだけで
茫然と見送ることしか
できなかった。

