何もない時代じゃったからな。 皆が自分の夢に 期待を膨らませることが 唯一の生きる糧じゃった。 じゃが、春江の話を聞く度に わしの心には、 常に立場の違いというものが 引っ掛かっていた。 片や何もない男と 片やすべてを持ったお嬢様なのだ 卑屈になるなと言うかもしれんが 当時のわしに すべてを受け入れろというのは 到底、不可能な話だった。 だが、その差を一時でも忘れさせ てくれたのも、 他ならぬ春江の無邪気な笑顔じゃ った。