帰りのタクシーの中で、
恭一がしきりに今日の事を訊いてきたが、




「ステキな夜だったわ」




と留美はそれだけ言うと
後は何も語ろうとはしなかった。




その代わりに、




「明日は…海が見たい」




とポツリと言うと
また窓の外に目をやって物思いに
ふけっている。




恭一は憮然とした留美の態度に
まだ怒っていると勝手に解釈して




「お!、海かぁ~、いいな、海!
 足を伸ばして湘南辺りにでも
 行こうかっ!」




と白々しく言うと、





「静岡の…御前崎の海が見たい」




と留美は恭一の提案など聞かずに
行先の場所を指定した。




いつになく留美の発する語気に
力が籠っているように思えて
恭一は一瞬言葉を詰まらせた。