留美は思いがけない呼びかけに
抗うよりも驚いて
おとなしく賢三を見つめた。




賢三は意識が戻ったようだったが
留美を見る焦点が合っていない。







「春江…」





賢三は意識が朦朧としてるのか、
留美を春江と勘違いしている。




留美はどうしていいかわからず、
咄嗟に賢三の手を強く握り返した。




賢三は、薄目で天井を見たまま、







「お前…には…苦労をかけたな。


 わしは…大した…ことは、
 できなかった…が、


 お前と……一緒に…なれて…
 良かった…


 ほん…とに…そう思っとる」







と、途切れ途切れに囁いた。





「無理に…」





と留美は言い掛けてやめた。





今、彼を止めてはいけないと判断
したからだ。





村上さんの思うようにさせよう…





とまだ喋ろうとしている賢三を
見守った。