「ああ、またな…」
と呆気にとられながら
聞こえないぐらいの声で言うと
走り去る奈々子を目で追った。
菜々子は一回も振り向くことなく
交差する人波に消えていった。
何もしてあげれなかった
恭一は自分の非力さを嘆きながら
力無く手を振った。
恭一は、
とりあえず新宿に行こうと
奈々子とは反対側のホームに
向かう。
すでに到着していた電車に
恭一は飛び乗った。
思いの外、車内は混んでいて
座ることができなかった。
仕方なく手すりにもたれて、
何気に向かいのホームに目をやると、
そこに見えたのは、
ベンチに腰掛けて、
泣いている奈々子だった。
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