「奈々は、どうなんだ?」
と恭一が不意に投げ返すと、
「私?…私のことはいいの…」
と話そうとしない。
「や、いいってことないだろう。
何か、心配事でも
あったんじゃないのか?
俺で相談に乗れるなら…」
と、親切心で恭一が言い掛けたが
「私のことはいいのっ」
と語気を荒げて遮ると、
奈々子はうつ向いて黙り込んだ。
恭一は奈々子の豹変ぶりに驚いて
言葉を失うと
気まずい空気のまま
しばらく沈黙が続いた。
喫茶店の店内は急に混み始めて
ガヤガヤと騒がしくなっていた。
恭一が周囲の雑音に気を取られて
いると
喧騒に入り交って、
微かながら奈々子の声が聞こえた。
「私………不倫してるの」
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