メリアはそっと胸に手をやって頷いた。

「分かりました・・・。エドマンド様に認めていたらけるよう、わたし、一生懸命練習します。機会をくださって、ありがとうございます」
 メリアは大きく頭を下げた。

 エドマンドは書類から視線を上げ、頭を下げるメリアに言った。
「君はランバート家の客人であって”侍女”では無い。即ち、そんなに畏まって俺に頭を下げなくていい」
 メリアは困ったようにおずおずと頭を上げた。
 そうは言うものの、メリアは所詮偽令嬢。客人の振りをした只の侍女な訳で・・・。
 
「君のそうした態度は人目を引くだろう。今後気をつけた方がいい」
 
 そういうエドマンドの警告に、メリアは深く頷いた。
 とはいえ、彼女自身そんな自分の態度のおかしさをあまり自覚しないままでいる。




 取り敢えずは、エドマンドにティーを無事出し終え、ハプニングも起こらずに終えたメリアは何となく中庭に出てみたのだった。
 理由は、ただ単純なこと。
 エドマンドに、ステップの練習は中庭でしろと勧められたせいだ。
 
 そうして、庭へ出たメリアは仰天することとなる。

 中庭の芝生がところどころ刈られていたのだ。
 それも、ダンスのステップを踏む足の形そのままに・・・。

(ここで、刈り取られた場所を踏んでステップ練習をしなさいと??)
 メリアは感動してぎゅっと手を胸の前で結んだ。
 エドマンドは、ほとんど碌に踊れないメリアの様子を見兼ねて、彼女にティーを頼んでいる間に自ら中庭へ出て、芝生を刈ったに違い無い。
 あれほど気にした様子を見せなかった、彼の以外な行動にメリアは驚くばかりだった。

 密かにメリアは強く決心を固める。
 きっと、エドマンド・ランバート伯爵の名に恥じぬダンスができるようになってみせよう、と。