「……何の、用事?」

「ママね、クレハが最近ムリしてるんじゃないかってシンパイで……おじいちゃんやおばあちゃんに聞いたら、カレシがいるんでしょ? そのせいか、帰りがオソイって」


 別に、そんな心配いらないのに。

 もし、カレとの関係を知られれば、相手をきっと傷付ける。母親はそれだけ、何をしてくるかわからない性格だから。


「別に……大丈夫、だから」

「もう、ウソつかなくていいのに。――だから言ったのよ。日本人なんて、クレハには合わないって」


 途端、真剣みを帯びる口調に、私は身構えていた。

 な、何が……言いたいの?

 まさか、カレにまで口出しするんじゃあ。

 不安が募り、息苦しい感覚が広がりだしていると、母親はたのしげな声を上げた。


「クレハには――ママの国の人が合うのよ?」


 それ、って……。

 母親が何を言おうとしているのか、すぐにわかった。

 まさか……私にも、薦めるつもり?

 母親は、自分の国の人と日本人の結婚を仲人している。そのほとんどが娘をなんとかいいところへ嫁がせようとする、母親の国の親が勝手に決めた結婚なんだけど。

 私にも、それをしろ……と?

 嫌な感覚が、体を浸食する。

 気持ち悪さが込み上げ、言葉を口にすることができなくなる。


「今度、連れくるからね。――それじゃあ、また来るわ」


 ぎゅっと私に抱きつくと、母親は満足そうに学校をあとにした。

 体は、まだ思うように動いてくれなくて。倒れることはなかったけど、そこから動くだけでも、すごく体力を削られていった。