「まー食事には違いないけど……市ノ瀬は、誰かと待ち合わせ?」
「あ、私はカレと」
説明をしようとすると、奥に見知った顔を見つけた。
あれ……赤峰先輩?
それに、一緒にいるのって。
目が合うと、その人物はカレで、手招きして私を呼んでいる。
その場に行くと、なぜか一緒に橘くんもついて来て――それを見たカレから、思わぬ言葉が飛び出た。
「ちょうどよかった。とりあえずこっち座れ。――目の前にいるのが、弟の朔夜。んでもって、隣にいるのが親友の幸希(こうき)」
な、なんで……?
二人とも、名字が違うのに。
それだけでも充分な驚きなのに、赤峰先輩までもがカレの知り合いだったことに、私はより驚きを感じていた。
「まさかホントになるなんて……ま、これからも、改めてよろしくな、市ノ瀬」
「コイツの彼女とはなぁ~。まぁよろしくね、紅葉ちゃん」
二人にそれぞれ挨拶をされ、私は少し遅れてから挨拶を返した。
名字が違うのは、親が離婚しているかららしい。
そう言えば、付き合ってしばらくして、そんな話をしていたっけ。
自分の家庭と同じとは知っていたけど、純さんの方が母親の姓を名乗っているなんて、初耳だった。
うわぁ~……本当に、弟なんだ。
そう思ったら、なんだかちょっと恥ずかしい気持ちになってくる。
「何、お前ら知り合いなの?」
「知り合いもなにも友達。オレと市ノ瀬、同じ学校なんだけど……気付かなかった?」
言われて、カレはしばし考え込む。
「――学校の名前とか覚えてない。それに、お前はデザインなんだから、コイツと知り合いになるなんて思いもしなかったしな」
まぁ、純さんの言うとおりだよね。
私だって、美緒と仲良くなってなかったら、こうやって橘くんとは友達になっていなかっただろうし。
「弟の学校ぐらい覚えててくれよ。でも、なんか安心した。知らない人でも仲良くするつもりだったけど、市ノ瀬なら元から知ってるしな」
笑顔で言う橘くんにつられ、それまで心にあった緊張はなくなり、自然と私も笑みを向けていた。
「うん、私も安心しちゃった。本当に驚きだよね、まさかつながってたなんて」
「ははっ、だよな。福原に話したら、はら抱えて笑いそう」
「ふふっ、そうだね」
「じゃあみんな知り合いみたいだし……気兼ね無く楽しみますか」
赤峰先輩が、グラスを持つように促してくる。
すでに頼まれていたグラスを持つと、みんなでカンパイをした。
あ……これ。
私に容易されていたのはビール。
軽く一口は飲むものの、やはり元々苦手なだけあって、すぐにその苦さに飲むのをやめてしまう。
先輩が頼んだのかなぁ?
純さんなら知ってるけど、知らない先輩ならしょうがないよね。
「……飲まないのか?」
様子を窺うように、純さんは聞く。
「ほら、私はビール飲めないから」
「……は?」
まるで、初めて聞いたかのようなリアクション。
困惑しながらも、私はいつものような口調で話し始めた。
「ほ、ほら! 前に言ったことあったでしょ? カクテルしか飲めないって」
もしかして純さん……忘れてる、とか?
「あぁーごめんごめん。オレが頼んだんだ。じゃあカシスオレンジとかにする? ソフトドリンクもあるけど」
「あ……じゃあ、カシスオレンジでお願いします」
「んだよ。前は飲んでただろう?」
小さく言われた言葉は、前の二人には聞こえず。それは私の耳にだけ聞こえた。
飲んでたって……。
一口ならあるけど、私は飲めないのに。
半年以上も経っているなら、忘れていても無理はないけど。ほんの一ヶ月前にも、似たようなことがあったはずなのに。
それからする食事は、もちろん美味しくてよかったけど……私は、カレの些細な言動が気になってしまっていた。
しばらくすると、二人がトイレや電話で同時にいなくなる瞬間が。するとカレは、私の手首を掴んで、呆れたように言葉を発した。



