冗談って……そんなこと、簡単に流せないよ。


「その写真、誰かに見せたり……してない、よね?」


 不安になり聞くと、カレは否定も肯定もせず、さーね? とはぐらかすだけ。

 どれだけ……不安になればいいんだろう。

 それを口にすれば、カレはいつも同じ言葉を言うだけ。何度その言葉を言われても、それを理解したくないという気持ちが、日に日に増していた。


【少し不安にさせるぐらいが、相手が逃げなくていいんだよ】


 多少の刺激というか、ちょっと気にさせるというようなことは必要かもしれないけど。

 相手が嫌だと言っても、尚もそれをやる意味って……あるの、かな?


「俺のこと……嫌いなの?」


 おでこにキスをし、いつになく甘い声で囁かれる。

 そんなふうに言われたら、肯定しかできない。


「…………好き、だよ」


 嘘じゃない。

 それは、本心から思っていること。



 なのに――チクリと、胸に痛みを感じた。



 その答えに満足したのか、痛いぐらいにカレは私を抱きしめてきた。


「安心した。朔夜の方を好きになったら、どうしようかと思った」


 私が、橘くんを好きになる?

 やさしいとは思うけど、純さんっていう彼氏がいるのに、他の人になんて目移りするなんてことはないのに。


「橘くんは……友だち、だよ? いくら一緒にいるからって、そんなこと」

「――その言葉、本当か?」


 少し低い声で言われ驚いたけど、私はその言葉に頷いて答えた。


「ならいいや。――今週の日曜、空けておけよ?」

「う、うん。わかった。どこか、出かけるの?」

「あぁ、幸希が四人で会おうって。アイツも彼女連れて来るらしい」


 先輩、彼女がいたんだ。

 どんな人なのかなぁと考えていると、カレは片手で顎をくいっと持ち上げ、視線を自分の方へ向けさせた。その目は少し怖くて……反射的に、私の体は後ろへ逃げようとしてしまった。