「――私たちは行こっか」
ぽんっと肩に手を添えると、きっと大丈夫よと笑い、美緒は励ましてくれた。
「そう、だよね」
「さくちゃんならやるって。――紅葉には、売り子やらなかった分おごってもらおうかなぁ~」
まだ不安がるのを察してか、美緒は相変わらずの元気で振舞ってくれる。
ショーまでの時間、美緒がまだゆっくりと模擬店を見てないこともあり、グラウンドに出てお店を幾つか巡った。
近くのベンチで、買った物を食べながら話をする。
意外とお店が繁盛しているとか、海さんが来てくれて盛り上がったとか。他愛もない話題で話をしている中、今更のようにカレとのことを思い出し、それを美緒に告げた。
「カレとね……昨日、電話して別れたの」
その言葉に、美緒は一瞬、言葉を失う。
しばらくして、それが本当かと何度も聞かれた。
「ほ、本当だから。こんなにあっさりだったのは、自分でも驚きだけど……」
「ホントよ! 早くても今年中だと思ってたのに」
意外よ意外! と、美緒は関心にも似た声を上げた。
「じゃあ今日はお祝いしなきゃ! イヤなこと吹っ切れたんだしさ」
自分のことのように喜ぶ美緒に、私は少し恥ずかしくなりながらも、そんなふうに笑ってくれるのがうれしい。
「美緒~そろそろ始まるぞぉ!」
少し離れた所から、海さんが私たちを呼ぶ。
それに美緒は元気よく返事をすると、私たちは、海さんがいるステージ近くへと向った。
「ちゃんと前の場所、取っておいたぞ」
どうやら橘くんから連絡があったらしく、海さんはいち早く、この場所を陣取ってくれていたらしい。
「紅葉ちゃんは、オレたちの前な」
そう言って、海さんは背中をぽんと押す。
ステージはT字の形をしていて、地面から1メートル離れており、見上げるほどの高さがある。
橘くん……どうなったんだろう。
ステージには、司会者である生徒が出てきて、これから行なわれるショーについての説明や注意をしていく。
出場は、全部で二十組ほど。
持ち時間は、一組二分~五分らしく、橘くんの番が来るまで、最短でも二十分。思ったよりも少ない時間に、心配で鼓動が早まってしまう。
「それでは、デザイン科による作品、とくとご覧下さ~い!」
司会者がそでにはけ、照明が暗くなる。
初めの数組は、特徴あるデザインの服。ハロウィン的な要素や、ゴシックな装いだ。
次の数組は、ふだんの服にちょっとオシャレをというのを意識した服。製作者が女子というのもあってか、服は女子の物が多い。
「あと、三組ぐらいか……」
ぽつり、海さんがそんな言葉を呟く。
時計を見れば、既に一時間はゆうに経っていて。
裏には来ているのか。それともまだ来ていないのかと、手に汗を握りながら、残りの組を見ていた。
でも、目の前で展開していることは、頭には入らなくて。
考えるのは、橘くんのことばかり。間に合って下さいと、何度も神様に祈っていた。
――それなのに。
「全員もう一度、ステージに上がってもらいましょ~!」
最後であろう組が出ても、橘くんの名前が呼ばれることはなく。
横一列に、今まで登場した人たちが整列した。
ダメ……だったんだ。
周りからは喝采の声がしているのに、私の心は、酷く沈んでいた。
今この瞬間にも、橘くんが頑張っているのかと思ったら、喜んでなんていられない。
「ほら、顔上げなって」
俯く私に、やさしく美緒は声をかけてくれる。
ふだんならそれで少しは安心出来るのに、今はまだ、心が安らぎそうになかった。
「――ここで最後に、メインの発表がありま~す!」
表彰でもあるのかと思っていると、照明が消される。
どうやらステージの中央に、何かを設置しているようだった。



