……バレ、ちゃった。
美緒にまで、あんな目で見られたくないのに……変わらず、いてくれるのかなぁ。
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「――紅葉?」
声が聞こえ、目蓋をゆっくりと開ける。
目に映ったのは……心配そうな美緒の顔。
どうやら保健室に運んでくれたらしく、私はベッドに寝かされていた。
「もう、急に倒れるんだもん! 心配したじゃない……」
「うん……ごめん、ね?」
いつもの……美緒だ。
私がハーフだって知っても、何も思わないのかなぁ?
「それにしても、急にお母さんが来るなんて驚いたよね」
「っ!?」
母親のことを話された途端、体が震え始めた。さっき対峙したのが悪かったらしく、心臓も鼓動の速さ増し、いつものように振舞えない。
「……何か、あった?」
眉をひそめ、美緒はより心配そうに訊ねる。
言っても……いいの、かな。
家のことを話しても、言われてもどうしようもない、頑張るしかないと言われ続けていただけに、なかなか言い出すことが出来ない。
歯がゆい感覚が体を侵食(しんしょく)し、ぎゅっとシーツを握り締める。
「…………」
「いいよ、無理しなくても。――なんとなく、想像出来るから」
そう言うと、美緒は立ち上がった。
「まだ休んでなさいよ? あ、おにぎり買っといたから食べてね」
いつものように振る舞い、美緒は笑顔を見せてくれて。
「それじゃあ、終わったら迎えに来るから」
そう言って、美緒は保健室から出て行った。
……ありがとう。
どこまで美緒が想像しているか分からなけど、美緒なら本当に……分かってくれるかもしれない。
だからもう一度、話してみようかなという気持ちを、持ってみようと思った。
他の人と同じと思うのは、よくないよね。
今までの人がそうだったとしても、美緒なら違う反応をしてくれるかもしれない。
カレだって分かってくれたんだから……きっと、美緒だって。
そうしたら、橘くんにも話してみよう。
一番仲のいい二人に話そうと決意し、ベッドでしばらく休んでいた。
◇◆◇◆◇
「今日は送ってもらいなさいよ?」
放課後、先に講義が終わり帰っていた橘くんに美緒が連絡し、わざわざ学校に来てもらっていた。
気分は戻ってきたものの、まだ体が思うように動かなくて……申し訳ないと思ったけどど、送ってもらえるのは、すごく助かる。
「ごめんね……帰ってたのに、また来てもらって」
「ヒマしてたからいいって。それより……」
真剣な声で話し出す橘くんに、私も自然と身が引き締まる。
「何か……悩んでない? オレでよかったら、いつでも聞くから」
「…………」
話を聞くからとか、言ってよとかではなく。
今までかけられた言葉とは違い、私のペースを考える言葉に、不覚にもころっといってしまいそうで。
心身共に弱っているせいか、すごく甘えてしまいそうになる自分がいた。
今なら……話せる、かな。
「あの、ね……」
ゆっくり、言葉を紡ぎ。
内にある思いを、声に出していく。
うんと頷いて、橘くんは聞く姿勢になってくれる。
「私さぁ……母親に、いやなことされて、育ったの。――だから、自分に母親と、同じ血があるのが嫌で……」
今じゃないと、言い出し辛くなる。
膝に置いた手に力を込め、意を決して、続きの言葉を発した。
「ハーフ、ってことも……嫌で、黙ってたの」
「……そっか。言われれば、市ノ瀬ってキレイだもんな。ハーフなの納得する」
「あ、あり、がとう。――それで、ね。今日は、母親が来て……それで、触られた、か、らっ」
言葉が、それ以上続けられなくて。
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。



