「アニキ、こーゆうのに興味ないはずなんだけど……」
そん、な……じゃあ、一緒に行ってくれたのって。
無理してたんじゃないかという考えが、頭を巡る。
あれから美術館に行くことはおろか、展示会にすら一回も行っていない。
もしかして……絵が好きだっていうのは、嘘、とか――?
嫌な考えが浮かび、表情は次第に、暗いものへとなっていく。
「――きっと、市ノ瀬のことが好きだからだろうな」
そんな声が耳に入り視線を向けると、橘くんは言葉を続ける。
「興味なかったことでも、好きなヤツがそれを好きだと、興味持ったりするだろう? それだけ惚れられてるなんて、うらやましいぞぉ~!」
「う、うらやましいだなんて……」
一気に顔が赤くなるのが分かり、思わず顔を背ける。
その言葉で、心に渦巻いた不安が晴れていき――ほっと、安心出来る自分がいた。
館内を一周すると、併設されているカフェスペースへ向う。
思ったよりもデザートが充実していて、お茶をするにはもってこいだ。
「パフェ交換しよぉ~?」
「いいよ。――あ、チョコも美味しい」
「ん~! イチゴも最高! もう一個食べようかなぁ~」
お互いのを何口か食べ、当たりのお店だったことに笑みをこぼす。
「花より団子、って言葉が似合うな」
コーヒーを口にしたあと、ふふっと笑みを見せながら海さんが呟く。
「いいじゃない。こーゆうのは女子の特権なんだから」
「いや……福原、特権は違うんじゃないか?」
ポテトをつまみながら、橘くんはツッコミを入れた。
言われた美緒はというと、どこか勝ち誇ったような表情をしていて。
スプーンで一口パフェをすくうと、海さんに視線をやる。
「そんなこと言うと……食べさせてあげるのや~めた!」
海さんの口元まで持っていったスプーンを、さっと自分の口へと持っていき、ふふ~んと余裕の笑みを見せた。
「んなのずりーぞ!」
「へっへ~んだ。全部私が食べるんですぅ~」
「「………」」
またしても始まった、二人だけの空間。
もはやお馴染みの光景だから、私たちはさして突っ込むこともせず、ふつうに過ごしていた。
「相変わらず仲いいよな。――オレもそれ、一口もらっていい?」
「うん、いいよ。あ、でも……」
口を付けたスプーンを使わせるのは悪いし。
どうしようかと少し戸惑っていると、察したのか、橘くんはふっと笑みを見せる。
「オレは自分の使うから」
そう言って、私にフォークを見せた。
「それだと……食べにくくない?」
「これで充分だって。んじゃ、遠慮なくもらうねぇ~」
さっとすくうと、橘くんは美味しそうにパフェを頬張った。
「お、そんなに甘くないんだな」
「うん、意外とさっぱりだよね」
「だな。イチゴもいい、かな?」
「ふふっ、いいよ。でも、そんなに食べるなら、同じの頼んだ方がいいんじゃない?」
気に入ったのか、それから二口ほど、橘くんはパフェを食べていた。
その時ふと、なんだか二人が静かだななぁ~と感じ、視線を向けて見ると。
「「な~に幸せオーラ出してんの?」」
声をそろえて、ニヤニヤとした表情の二人が、私たちを見ていた。
「朔夜は危険な恋をするタイプなのか? 市ノ瀬は彼氏もちだろう?」
「それも、実のお兄さんが彼氏なんだよ」
「マジか?! うわぁ~実らない恋か」
「ちょっ、変なこと言うなって!」
「そ、そうだよ! 橘くんが私を好きになるはずないし」
二人で否定するものの、美緒たちからはごちそうさま~という雰囲気を向けられてしまい――送ってもらいなと言われ、帰りは橘くんの車で帰ることになってしまった。
「アイツら……自分が二人きりになりたいだけだろう?」
ため息をはきながら、呆れたように言葉を発する。
それに頷きながら、私は申し訳ない気持ちで橘くんに謝った。



