「誰かに……壊された」





 その言葉に、私だけでなく橘くんも、すぐに言葉を発することができなかった。

 教室の奥に進むと、そこには無残にも切り裂かれた真っ白いドレス。胸元とスカートの部分が、大きく切られていた。


「…………」


 ドレスを見つめ、未だ一言も言葉を口にしない橘くん。

 同じ作品を作る者なら、それが故意に壊されてしまったことがどれだけ辛いものか。

 自分の作品が傷付けられたように、私は胸が締め付けられていった。





「――――順番、変えれますか?」





 沈黙の中、ようやく発したのは、そんな言葉。

 それに先生は少し間を置いてから、できると頷いた。


「だったら、最後にしてもらえませんか? 少しでも時間が欲しいので」


 もしかして……今から、直すつもり?

 ショーが始まるまで、既に一時間を切ってる。最後になったとしても、三十分稼げるかどうかというぐらいしかない。


「わかった。出来るだけ延ばせるようにはしてみる」

「お願いします。――市ノ瀬」


 不意に声をかけられ、私は不安な表情のまま、橘くんを見た。


「もっといいの作るから、待っててくれな?」


 ニカッと笑みを見せ、いつものように橘くんは振舞ってくれた。

 それに周りは、どこか安心した表情に戻っていったけど……。