魔法使いは大きなトランクに

【飛】の魔法をかけて

空を飛んでいた。


トランクに腰かけて朝日を背に

朝食の支度をしていた。


「【水】」


【水】の魔法で水を出し、

ポットに入れる。


「【火】」


【火】の魔法で指先から

火をだして湯を沸かす。


朝の紅茶を一杯。


ナイフでパンを必要な分だけ

切る。



家を出る時に厨房から

少々の食糧と婚約者だった男の

貯金箱を拝借した。


ついでに裏切った親友宅の

屋根の煉瓦をいくらかはがし

煙突をふさいだ。



「これじゃあ本当に魔女ね」


つい一人言を呟いて苦笑。


旅を始めて1週間。


食糧はそろそろ

底をつき始めている。


旅を始めてから

風呂に入る時以外

地上に降りていない。


(町に降りるか……)


近くに町はないかと

辺りを見回す。


風がうなる音がして

振り返った途端、強風が吹いた。