凌の住まいは、我が家からそんなに遠くない場所にある、しかし我が家とは格が違う立派な高層マンションだ。

俺が生まれたころから、この周辺は神世の創立と共に開発が始まり、家族向けの高級住宅や進学塾などが次々と建造され、今では教育熱心な親達の憧れの地域となっている。

凌が住むマンションも、その開発の一端として建てられたもの。

ちなみに、うちの団地は神世が造られる計画が影も形もなかった頃から建っている、時代から置き去りにされた自縛霊のような存在だ。


ものの十数分で、マンションは見えてきた。

ある程度近づくだけで充分なので、道路を一本隔てた所で俺は足を止める。

敷地に踏み入ることはしない。

随分前に一度だけ凌の部屋に上がらせてもらったことがあるが、例の母親から家柄や家族のことを根掘り葉掘り聞かれて、挙句あからさまに嫌な顔をされたので、もう二度と行かないと決めている。

俺は、凌の部屋のカーテンを確認しにやって来たのだ。

十一階の、一番右端の部屋。

家庭教師が来ているときは、集中するために閉められているカーテンが、今は開け放たれている。

ということは、家庭教師は来ていないらしい。

それなのに俺の家に来ない、電話にも出ないということは、やっぱり昨日のことを気にしているんだな。

まあ何も知らない状態で凌が女の子を部屋に招き入れている現場を目撃すれば、俺だって勘違いするし悔しいだろう。

気持ちは分かるから、とっとと探して誤解をといてやりたい。


行方は、なんとなく分かっていた。

だから足は迷いなく動いて、懐かしい場所にたどり着いた。

一人ぼっちで時間を潰したり、凌と勉強会を開いていた近所の公園。

ここに来るのも久しぶりだ。

それにしても、いい天気だってのに子供の姿が一つも見当たらない。

もしかして、この辺りに住んでいる最近の子供達は、塾や習い事で遊ぶ暇さえ与えてもらえないのかもしれない。

不憫なことだ。

同情しながら歩みを進める。

そして目的の場所で立ち止まり、しゃがみこんだ。