HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


森本はメガネ姿で、化粧などしておらず、制服こそいつも通りだったが、慌てて家を飛び出してきたと言う格好だった。


「神代先生は何も悪くないんです!」


森本は開口一番に勢い込んだ。その森本の勢いにたじろぎながらも


「ちょ……ちょっと待ちなさい」僕が宥めようとしても


「先生は悪くない!悪いのはあたしの母です!」


森本は一気にまくしたてた。まるで校長先生の机を飛び越すぐらいの勢いで、校長先生がたじろいだようにちょっと背を逸らす。


「森本、待ちなさい。僕は校長先生から怒られても注意もされてない(今の所は)」


なんとか言うと、森本は「え?」と声を発し僕と校長先生の間で視線をいったりきたりしている。


「私の方も説明不足だったみたいだね、神代先生」


と、自分のペースを取り戻した校長先生はおっとりと言い


「実の所、森本さんの親御さんからクレームの電話が入ったのは初めてではないんですよ。


去年は5回程ありました」


校長先生は掌を広げて「5」と言う数字を現した。


五回も!?


その数字に僕はびっくりし過ぎて一歩後退した。


「担任の先生は勿論のこと、主要五教科の先生にクレームが多々あり、その都度先生を変えてくれ、と言われましたが、こちらとしても先生に非がない限り、担当を外すわけにはいきませんから」


校長先生はこれまでやんわりとした物言いだったけれど、この言葉だけはキッパリと断言した。


「あの……じゃぁ神代先生は…」


と森本が不安そうに僕を見上げてきて


「事情を聞いていただけですよ。まぁ落ち着きなさい」と校長先生はやんわりと言い、笑顔を森本に向けると、ここになってようやく森本が肩の力を抜いたようだ。


「子供のことを考えるのは素晴らしいことですが、その考えをはき違えてもらっては困る。


私は神代先生になんら問題はない、と踏んでます。なので森本さん、君も安心しなさい」


校長先生は声音こそ柔らかいものの、きっぱり言い切り、その顏にはじめて「貫禄」と言う言葉を感じた。