校長室をノックすると、「どうぞ」と中からおっとりとした返事がかえってきて、ちょっとだけ気が緩む。どうやら一刻を争う緊急事態ではなさそうだ。
校長室は大きくて立派な机に、棚には部活のトロフィーや楯がたくさん飾ってある。そのどれもが運動部のもので野球部やサッカー部、女子バレー部やバドミントン部の花形運動部のものが目立ったが、その中に、雅が去年怪我を負った階段の絵画コンクールで大賞をおさめたと言う賞状もあった。あまりまじまじと見たことがないが、緊張し過ぎて…と言うか開き直りと言うか、諦めと言うか、そんな気持ちだったから変な余裕が出てきたのだ。
校長先生は革張りの回転椅子に腰掛けていて、僕に背を向けていたが、僕が入ってきたことに気付くとゆっくりと椅子を回転させ僕に向き合った。口髭を生やした小柄で、いかにも温厚そうな顔にはそれに不釣合いな緊迫感は感じられない。
「あの……」
僕が切り出すと、校長先生は机に両肘を付き顔の前で手を組むと
「実はね、先ほど神代先生の担任している森本さんの親御さんから電話が掛かってきましてね」
やっぱり―――……
またも眩暈がしそうだったが、何とかその場で踏みとどまる。
「神代先生のクラスで森本さんが苛められてるんじゃないか、と。先生はどう思います?」と聞かれ
「……ない、と思います」僕はおずおずと答えた。ハッキリと『ない』とは言い切れない。
「まぁそうでしょうね。私の目なんて当てになりませんが、見た所色んな意味で団結、そして無関心…と言うと聞こえが悪いですが、タイプの違う生徒のことをそれほど気にしていないように思えるし、異質なものを排除する様子も窺えないし、さらに言うと先生のクラスの生徒たちは陰湿そうには見えない」
校長先生はにこにこ言って、僕はその返答に面食らった。正直、拍子抜けだ。だけど僕も校長先生と同じ考えだった。
校長先生曰く、彼はイレギュラーと言うと聞こえが良いが抜き打ちで、たまに授業風景を扉の外から眺めて観察していたらしい。そのことにも驚きだった。見られてる、なんて一度も疑ったことがない。
「あの……」僕が声を発したと同時だった。
バンっ!
校長室の扉が、予告もなしにかなりの勢いで開いたので、僕と校長先生はびっくりして音の鳴った方へ顏を向けた。
扉に手を当て、肩で息をしながら呼吸を整えていたのは
森本―――…!?



