別れの曲を君に(短編)


ぱちん。


不意に音楽室の電気が付いて、世界が光に包まれる。


我に返った良平は、ハッと顔を上げた。


「あれぇ、矢部先生?」


名を呼ばれた良平は、まぶしさに目をすがめながら、ゆっくりと声の主に視線を向ける。


「こんな真っ暗の中で、ピアノの練習ですか? いつも熱心ですねぇ」


ドアの所に佇み、笑顔で声を掛けてきたのは、顔見知りの巡回のガードマンだ。


「……ええ、熱中しすぎて、日が暮れたのに気が付きませんでした」


良平は、苦笑しつつ言葉を続ける。


「今日はバレンタインなので、一人で感傷に浸っていたんですよ……。もう少ししたら、帰ります」


「良いですよ、思う存分練習して下さい」


「はい。ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて、もう少しだけ」