シャワーを浴びて、李花が淹れてくれたコーヒーを飲む。
「李花、ちゃんと寝たのか?」
クマができた頬を撫でる。
静かな朝だ。
「大丈夫だよ。今からちょっと寝るよ」
李花の頭が肩に寄りかかる。
壁に寄りかかって、ふとテレビ台の上を見た。
そこには、Trickstersの社員証が置かれていた。
「これ、李花が置いたのか?」
「ううん、昨日からそこにあったよ。大切なものかもしれないから李花触ってない」
もう使えない社員証。
用がないなら、残していくなよ。こんなもの……
悲しくなるだけだ。
社員証を見る……
ん?
「李花、着替えてからでかけてくる! 何かあったら、電話してくれよ」
睡眠薬でグッスリ眠らされたおかげで、頭がクリアーだ。
頭がすっきりしていて、何かを見間違えるはずがない。
「いってらっしゃい、じゅんちゃん」
オートロックの扉を開く。
すると「ゲッ!?」
目の前を武尊之銀行頭取が歩いていた。
二十億奪われた喪失感からか、俺と違って一睡もしていないのか
覇気のない青白い顔をしている。
「君は……」
最悪。
ここで、バレんの?
俺、急いでんのに!
だけど、頭取の視線は俺の後ろにロックオン。
「李花!」
「パパ!?」
パパ?
「お前が、娘を誑かしてるチンピラか!」
「じゅんちゃん! ドア閉めてよ! 李花捕まっちゃう! 李花何も悪いことしてないのに!」