「…わた、し」

「ん、それでいいよ。可愛い」


この人は、女の人に慣れている。
それが………私に通用しないことを知らずに?


「はい、ありがとうございます」


分からない。
こんな時に、返す言葉が分からない。
あの人の記憶には、この人の記憶はない。
仲が悪いのか、それとも、彼のことなど眼中にないのか。


「私の、名前を返してくださいま」

「返すって言うのはなんだか違う言い方だね」

「は…」

「父さんに、何か言われた?俺に服従してはいけないとか」


言っている意味が分からない。
服従とはどういう意味なのだろうか。


「いいえ、そのようなことは一言も」

「一言も?」

「はい」


この男は、私に何を求めているのだろう。


「君はね、俺の妹の外見を使ってる」

「存じております」

「俺はね、妹が嫌いなんだ」

「…そちらは存じておりませんでした」

「ね、父さんにお願いしてきてくれない?」

「…あなた様のお願い事でしょうか?」

「ううん、俺からって言っちゃダメ」


察しがついた。


「君のね、外見を変えて、って父さんに言ってほしいんだ」






この人は、私を見ようとしている。