【5】隣人の森

 その犬には、首輪が付いているものの、飼い犬にはとても見えなかった。捨て犬か、飼い主から逃げ出した犬が、明らかに野生化した結果であろう。人間に翻弄された犬の末路にちがいない。

 狂暴にも私の右足のズボンを引き千切ったのを皮切りに、私の悪夢が始まった。
 犬は私の血肉をむさぼり始めた。右足がもぎ取られ、次に左足が食いちぎられた。
 それはまるで、木の枝のように脆かった。

 右腕の砕かれる音を聞いたあと、犬が左腕に噛みついたところで、私はようやく意識を失った。