「こんにちは。」

40代くらいの女性が出てきた。
奥さんだろうか。

「こんにちわ。」
「お久しぶりです。こんにちわ。」

私とのぞみさんが挨拶すると彼女は私を見て言った。

「こちらのお嬢さんは?」
そういうので、
「たぐ…村西葵です。」
と、
最近変わった名字で自己紹介した。
のぞみさんは付け加えるように、
「田口教授の娘さんです。最近離婚なさって名字が違うみたいなんですけど。」
と、言った。

女性は笑って
「私は高瀬百合子。ローマ大学の考古学客員教授してます。」
と言った。

私は
高瀬教授が女性だってことが意外で
あらためて彼女を見た

たしかに知的な感じがする。

「田口くんとは大学のときに同級生だったんだけどね。
学部は違っても彼は優秀だったからローマで再会したときは本当にビックリしたわよ。」

高瀬教授とパパが知り合い?
私の方がビックリだった。

居間に通された。

その広い部屋の片隅でグランドピアノを弾く美少女がいた。

「ごめんなさいね。あのこピアノを弾くとき他のことが目に入らなくて」

「瑠菜ちゃん。ますます上手になったんじゃないですか?」

「そう?私にはさっぱりわからないわ。モト旦那に似たのかな。芸術家タイプだったから。」


それが、
瑠菜との出逢い。

彼女は技巧的な曲を黙々と引き続けていた。

何かに取りつかれるみたいに。