【完】そばにいるだけで




すると、桐生くんはわたしに本を差し出した。



「これ、昨日の忘れ物」



それは、わたしが落としてしまったあの単行本だった。



「ありがとう」



彼はわたしに本を手渡すと、



「僕らも、その小説みたいな恋愛、できるかな」



と言った。



「え?これ、読んだの?」



そう言うと、桐生くんはにんまり笑った。



わたし、まだ全部読んでいないのに。