そして、わたしは桐生くんの前を通りすぎてしまった。 通りすぎて、フェンスにしがみついた。 何かにしがみつきたかったわたしは、フェンスを握って少し安心した。 斜め後ろ45度の位置に、桐生くんがいる。 桐生くんの気配を感じる。 桐生くんは、わたしに気づいたのだろうか。 それとも、気にも留めずに本を読んでいるんだろうか。 振り返って確認する勇気がない。 わたしは、昼休みが終わるまで、フェンスにしがみついたまま、遠くの景色を見つめて何か物思いにふけているフリをしていた。