【短編涼話】 十物語

『ここから出してやろうか?』

紅い唇が動いた。

「・・その手に乗るもんか。代わりに命とるつもりだろ。」

鬼はニィッと口の端を吊り上げた。

『たしかにそういう場合もある。だが今宵は新月じゃないからな、命の代償はいらん・・まぁ、お前の持つ魂の色は実に魅力的だがな。』

笑う鬼の声にぞっとした。

僕は無視を決め込み、鬼の存在を頭の中から閉め出そうとマットに深く潜り込んだ。

鬼は僕のそばに座り込んだ。

耳を塞いでも鮮明に聞こえる囁きは、僕の心を揺さぶり続けた。

冷えた体が徐々に思考を麻痺させていく。

僕は体の限界に抗うことができなかった。

この世には、聞いてはいけない言葉があるってこと、婆ちゃんに教えてもらってたのに。