【短編涼話】 十物語

『客人か。多いな。』

低く、静かに、闇を裂く声。

『なんだ、随分久しぶりじゃないか人間。』

何だろう、このザラザラする感じは。

心臓が素手で握られてるような心地の悪さに、唇が震えた。

それでも目が自然にそちらへ向いてしまう。

カチカチと奥歯がなった。

居るはずのない者。

アルハズのない姿。

銀の髪を振り乱した鬼は微笑った。

『この姿、覚えているのか。じゃああの約束もよもや忘れてはいまい。』

僕は首を振った。

「知らない。お前なんか知らない!」