ただ、家には帰れなかった。
知らない道を走っていると、大きな桜の木がある場所に着いた。
まるで、誘われるように。
桜に近付き、見上げた。
その桜は酷く綺麗で、自分が余計に醜く感じさせる。
何となく苛々して舌打ちをすると、人の気配に気付いて振り向く。
「………」
同い年ぐらいの、女がいた。
女は俺を見て、視線を桜に移す。
よく見れば、女はこの桜に似ている。
「何?」
気が付けば、俺が女を見つめていた。
……見惚れて、いたのか?
気まずくなって、黙って目を逸らした。
「あんた、いい目してるわね」
「は?」
女は俺の横に来て、こっちを向く。
いい目とか、言われたのは初めてだ。
「意志の篭った目をしてる」
思わず眉を寄せる。
すると、女は少し口角を上げた。
「他人に何て言われても、信じている」


