練習試合をしていた俺は、審判の声で我に返る。
正面を見れば、相手の男が壁際に倒れていた。
周りは俺を見ている。
……あぁ…俺の、所為か。
俺は起き上がろうとしている男に近付く。
『野蛮な奴』
『だから嫌なんだよ』
『最低だな、あいつ』
男に謝る前にそんな声が聞こえて、俺は差し出そうとしていた手を握り締めた。
『氷上はいかれてるんだ』
後ろから、一番聞きたくない言葉が聞こえる。
頭で考える間もなく、俺の握り締めた手はそっちへ向かっていた。
ガンッ
鈍い音が鳴る。
殴っていたんだ、その男を。
『氷上を悪く言うな!!!!!!』
ざわつく中で息を荒くしながら、怒鳴った。
しんと静まり返った頃に、俺はやっと自分の意思で動く。
その時は、出ていくしかなかったんだ。
道場を出て、走った。
どこへ向かうかは考えていない。