それにしても…気になる。
お母さんがあんなに怒るなんて、

私を殴るなんて、なかった。


「お母さん、どうしちゃったんだろ…
あんな風な怒り方したこと…なかったのに…」


「それはね、
朱音さんも…貴女と同じようなことになったの。」


そう言いながら病室に入ってきたのは、すごく穏やかな笑みを浮かべた年配の先生。白衣に付いている名札には、
「院長」と書かれている。


その、院長センセイの話で分かった。


この病院で、院長センセイの処置を受けながら、お母さんは私を産んだこと。


「そっくりよ。
お母さんに。
…何より、雰囲気が。
大きい目と弓形にカーブした眉も似てるわ。」


そんなことをサラリと言うセンセイに、私は照れることしか出来なかった。


「だけどね、奈留ちゃん。 奈留ちゃんは朱音さんにとって…2人目の子供だったの。」


一瞬、思考が止まった。

2人目、って…


「1人目はね、流産したわ。…奈留ちゃんと同じ。
親子って、境遇まで似るものかしらね。
奈留ちゃんと唯一違うのは、転倒による事故だった、っていうことよ。
流産したって…お腹の子はもういないって知ったとき…泣き崩れていたわ。」


「それと…流産して中絶した後に…職場で中傷を受けたの。
『中絶した産婦人科医師』ってね。
それで…しばらく出勤出来なくなったの。
幸いだったのが、その中傷した人たちが、なかなかのウデの持ち主だったこと。
要請が来ると、さっさと大学病院に異動したわ。」


私…お母さんの娘なのに…知らなかったね…
ごめんね…


「貴女には…同じ思いをしてほしくなかったのよ。
きっとね。」