ウィーンの…ミュージックカフェにいる音楽家の人たちは…本当に個性的。
だから僕とか岳さんに…ちょっと変わったあだ名を付けたりする。

岳さんは…

「アルプス。」


名前に山を表す漢字がたくさんあるからなんだって。

ちなみに僕は…


「パピー」。


たまに見せる仕草や表情が、子犬みたいで可愛いからだって言ってた。
僕は全然、そんな自覚…ないんだけどな…


「岳さん、僕の前では、パピーじゃなくて、普通に読んでくれていいんですよ?」


「えー(笑)。
パピーのほうが呼びやすいから、そう呼んでいるだけなんだけどね。」


「もう…」


クスッと笑いながら、ウィーンの今日の夜空によく似合う、
「月光」を弾く。

ベートベン作曲。

ピアノソナタ作品27の2の通称。


「いやあ~。
やっぱりパピーの奏でる音色は最高だ。
α波でも出ているんじゃないか?
危うく、眠りに付くところだったよ。


「もう、深夜の11時ですよ?
何しに来たんですか?」


「ピアノ弾いてばかりでもつまらないだろうから、
ちょっと呑む時間が欲しくてね。」


岳さんが訪ねてくるときは大抵、そんな用件だ。