だけど…悠月に会えないのは…
やっぱり寂しい。

さっきのように、テレビ電話やら国際電話でしか…
繋がりを確認できない日々が続く。


そんなウィーンでの生活にも…
大分慣れつつあった。


そんな自分が…

少し怖かった。


いつか…日本の風景と同じように…

悠月のことも忘れてしまいそうで…


気晴らしに…

ピアノを弾く。


君のことを忘れてしまわないよう、
ゆっくり丁寧に、君と…作詞した曲を弾く。


「Statue Of happiness」。


ウィーンに来て2ヶ月。


いろいろな発表会やら演奏会やらをこなしてきて、分かったこと。


この曲を最初に弾くと、
会場から拍手喝采を浴びるんだ。

多分…これを弾くと、悠月との楽しい思い出が蘇ってきて…
まっさらな心でピアノと向かい合うことが出来るんだと思う。


曲名の通り…
自分の中にある幸福感が…像のように形作られて…
解き放たれていくのが、自分でも分かる。


悠月にこれを言ったら、きっと喜んでくれるだろう。

そう、心の内で思いながら、演奏を終える。

すると、ペダルから足を離したと同時に、部屋に響き渡るチャイム。


「はぁい?」


「パピーは相変わらずだなぁ。
素晴らしい演奏だよ。
俺が聞き役になってやるから、
もっといろんな曲を弾いてくれよ。
この曲を弾いた後のパピーを見るのが俺は好きなんだ。
いつもより何十倍も…身体の内側からキラキラ輝いている気がするんだよ。」


この人は…ウィーンの音楽家が集まるカフェで出会った、日本人の山中 岳さん。
僕の許可を得る前に、既にリビングのソファーに図々しく腰を下ろしている。