……すると。


オギャ-!


分娩室まであと数メートルのところで…

廊下まで響いた産声。


…ゆづ、お疲れさま。


分娩室の上の赤いランプが消えたと同時に、
中から先生が出てきた。


主治医の朱音先生だ。


「ありがとうね。
貴方のあのピアノがなかったら、かなりの時間がかかっていたわ。
あれでね、彼女もリラックス出来たみたい。
安心して。
母子共に健康だから。
どうぞ入って。」


「ありがとうございます。」

先生に頭を下げてから、中に入る。


「か…かず…?」


ゆづはかなり疲れているみたいで、声が掠れていた。

「ごめん。
ごめんね?ゆづ…
立ち会ってあげられなくて…
よく頑張ったね。
お疲れさま、ゆづ。」


子供にそうするようにゆづに目線を合わせて、彼女の小さく丸い手をそっと握ってやる。
もう片方の手は優しく頭を撫でてあげた。


「ううん…大丈夫。
あの曲…ありがとっ…
覚えてて…くれたんだねっ…
和が隣にいる気がしてたの。
あの曲が流れてる間。
だからね…頑張れたんだよ?」


「うん。
僕のほうこそ…ありがとう。」


体力的に限界だったらしい。


僕に何か言おうとしたが、すぐに眠ってしまった。


可愛いな…


ホント…大変だったよね?
散々ゆづのこと抱いてるから分かるけど…
出産なんて…出来るの?

ってくらい…華奢な身体してるもん。


苦労して…産んでくれたんだよね。

僕との…愛の結晶を。

ありがとう、悠月。


僕は、ぐっすり眠っている彼女を起こさない程度の軽いキスをしてから、分娩室を出た。