「ちなみ、ちなみ」

「ん・・・」

「俺、腹減った」

「・・・むぅ・・・」

「飯、作ってくれよ」

「ぅー・・・」


耳元で、心地の良いアルトが名前を呼んでいた。

でもその持ち主が誰か解らなくて、オマケに二度寝したから意識も中々浮上しなくて。

自分でも知らない内に、アルトの主と会話するように唸り声を上げていた。


「・・・・・・起きねぇと、」


より一層、先程よりも近くに感じるアルトの声。

その声が心地よくて、また意識がユラユラと落ちていこうとする。



その瞬間、



「襲うぞ」

「っっ!!?」

「やっと起きたかよ」

「せせ、せ千夜?!」


千夜の爆弾発言に、千夜の腕の中で一気に覚醒した。

そのあたしの様子に、千夜は面白そうに喉の奥で笑っている。


「腹減ったー」

「じゃあ離してよ」


笑い声を抑えようとしない千夜に、ふて腐れたような声を出しながら抗議するも。

あたしを抱き締める腕も、繋いでいる手の力も緩められることはない。

そして、あたしが無理矢理に体を起こそうとすれば、許さないというように肩に腕を回され拘束されてしまう。


「もうちょっと、このままで居させろよ」

「・・・・・・貧相なあたしには手、出さないんじゃなかったの?」

「覚えてねぇよ」

「都合の良いオツムですねー」


諦めて、千夜が気の済むまで抱き締められることにした。

そして、あたしは居心地の良いところをごそごそと探していると、千夜が腕枕をしてくれた。

自然と顔が先程よりも近くなるし、目線も近くなる。

あたしを見つめる千夜の視線に、キョトンとしながら首を傾げる。


「ちなみ」

「何?」


「おはよう」




「おはよ、千夜」










綺麗に微笑む千夜に、

あたしも釣られるように微笑んで


どちらからともなく、繋ぐ手の力を強めた
















"おはよう"だなんて

起きて直ぐ、言われたの


何年ぶりだろう