狼谷健太郎。


クラブは違えど同じ県内に住むスケーターとして、昔からその名前は耳にしていた。


彼の才能が世に知れ渡ったのは中学二年の時。


年齢制限の関係でジュニアに上がったばかりのシーズンだったが、全日本ジュニア三位表彰台。世界ジュニアでは五位入賞といきなり好成績を叩き出した。


その年の世界ジュニアには、当時イギリス代表だった橋本朝飛が出場しており、誰が優勝してもおかしくない歴代最高レベルの選手権だった。


その中で五位。しかもジュニアに上がったばかりということを考えると、狼谷が如何に優れたスケーターであるかは一目瞭然だ。


だけど狼谷は、ある事件をきっかけにその舞台から消えた。


彼とは交流が無かったし、それ以降狼谷がどのようにしているかは全くわからなかったが、まさか俺と同じ高校に進学していたなんて、世間とは案外狭いもんである。


このチャンスを活かす手はない。


ブランクがあるとはいえ、日本ジュニアの三強とまで言われた選手だ。


そう簡単に今まで身に付けた技術を忘れることなんて出来やしない。