「昨日、黒川から電話が来た。悠斗達から離れないと、みんなに迷惑がかかると思ったから…」
「だから今日、あんなこと言ったんだ」
全部話し終えた私に悠斗は優しい声をかけてくれた。
「悠斗には敵わないなー…。私がいじめられてた時、上靴直してくれたのも悠斗でしょ」
「んー?なんのこと?」
とぼけたように言う悠斗に小さく笑ってから、ひとつ息を吐いた。
「屋上までは誰も見てないと思う…けど」
立ち上がってスカートを少し払ってから、悠斗を見下ろした。
「一応、見られてたら困るから喧嘩するぞ」
「は!?」
驚いている悠斗から目を離すことなく、もう一度続けた。
「私のこと殴って。軽くでもいいから」
「無理に決まってんだろ!」
悠斗も立ち上がって、私の肩を掴む。
「慣れてんだよ、殴られることくらい」
「でも」
「悠斗。私を誰だと思ってんだよ」
悠斗の辛そうな目をそらすことなく見れば、悠斗がうな垂れるように目をそらした。
「俺を殴るんじゃダメなのかよ」
「私が喧嘩できるって相手に知られたくない。まだ黒蝶だってバレてないし」
ゆっくりと顔を上げた悠斗の目は揺れていたけど、覚悟を決めてくれた気がした。
「…うまく怪我しないように避けれるんだな?」
「ああ」
「じゃあ、行くぞ」
「よし、来い」
殴られる覚悟を決めたけど殴られることはなくて肩をトンッと押され、尻餅をついただけだった。
「これで許せ」
悠斗は辛そうに笑ってからクルッと踵を返して屋上から出て行った。
殴られれば、いろんな人を傷つけてしまった事が少しだけ許される気がして殴ってなんて言ったのに。
「どこまでも優しい奴だなあ」
座り込んだまま空を見上げれば、少しだけ星が出ていた。

