私たち吹奏楽部が来ているのは、学校からバスで2時間の距離にある湖畔のホテル。

防音ホールにグラウンド、テニスコートまで完備されたこのリゾートホテルは、かつて、誰でも一度はその名前を耳にしたことがある某大企業の福利厚生施設だったらしい。

当時は大勢の利用者で賑わっていたらしいんだけど、それも長引く不況で企業が経営から撤退してしまうまでの話。

今では、地元のホテル会社や観光協会の管理下で、学生の合宿や企業セミナー等、団体客向けの営業を細々と続けている状態らしかった。


確かに、ホテルの外観も内装も、目の前のテーブルひとつとってみても、どことなく寂れた感じがする。

今日だって、週末だというのに私たち以外にはもう一組、地元大学のサークルの人たちが利用するだけらしいし……。


そんなだから、ここを「リゾートホテル」と呼ぶにはちょっと抵抗があるんだけど。


でも、私たちには、それがかえって好都合だったりする。

だって、他のお客さんに気兼ねする必要がないわけだし。

少し古いことを我慢すれば、破格の値段で利用できるありがたい物件なんだから。