孝輔は――グレムリンを飼っている。

 それは、まだ手袋の中に住んでいた。

 出て行こうとすると、すぐにやる気がうせてしまうのだから、ついにそれは手袋の中から出るのをあきらめたようだ。

 手袋のしわをうまい具合に使って、顔らしいものを作ることも覚えた。

 手袋は軽めなので、中でのうごめきを利用して、手袋ごと動くことも覚えた。

 孝輔とは、同じ機械属性で居心地がいいのか、気がつくと彼の傍で、うごうごしている。

 今は、手袋の指先をつかって、飛び交う電波を捕まえようとしているかのようだ。

 最近は、そんな姿を可愛いと思うようになってきた自分に戸惑っている。

 そこを動いているのは、彼らの言うところの、「化け物」なのに。

「すっかり、なついちゃいましたね」

 コーヒーを届けてくれたサヤが、手袋をよけながらマグカップを渡してくれる。

 半端に動けるものだから、悪さをすることがあるのだ。

 この間は、勝手に孝輔のパソコンのキーボードを押していた。

「同じ引きこもり同士、ひかれあってるんだろ!」

 孝輔が答えるより早く、眼鏡が口をはさむ。

 グレムリン事件を思い出させる手袋があると、直樹の機嫌はすこぶる悪い。

 弟にハメられた記憶が、よみがえるせいだろう。

 おかげで悪態をつかれても、孝輔はニヤリとしてしまう。

 珍しく、兄貴にほえ面をかかせることができたのだから。

 たまにはこういう時がないと、直樹の弟などやっていられるものではなかった。