そうだ。

 あの手袋は、霊の探査や消去に使われる特殊なものだ。

 やわらかく見えても、中には小さなコンピュータのようなものが入っているのである。

 囮端末の目の前に、あんなものを突き出したら。

 命の危ないグレムリンが、大喜びで逃げ出すに決まっているではないか。

 しかも。

 直樹は立っている。

 床の端末から、立っている直樹の手袋に飛び移ると。

 サヤは、はっと上を見た。

 電気配線の走る、天井が近づく。

 逃げられる!?

 サヤは、天井からそのまま孝輔に視線を飛ばした。

 この瞬間。

 一番頼りになる人間は誰かと聞かれたら――サヤには、孝輔しか浮かばなかったのだ。

 だが。

 そんなわずかな時間さえ、電化製品に巣食う精霊には長すぎる。

 天井までの距離が足りているなら。

 もう。

 あの手袋に。

 グレムリンは。

「えっ」

 しかし、サヤはソレの存在を感じた。
 まだ、ソレは手袋の中にいたのだ。

 ぎりぎり、天井まで距離が足りないのだろうか。

 孝輔の口の端が――ニィっと上がった。