「5年ぶりのデパートです」

 楽園に到着したかのように、サヤは目を輝かせた。

 霊能力者とはいえ、女性だ。買い物は嫌いではないらしい。

「さて、どっからいく?」

 生活用品、電化製品──彼女は、案内板を食い入るように眺めている。

「とりあえず、服を…」

 サヤは、自分の着ている衣装を引っ張って見せた。

 これだと日本では、目立ちすぎると苦笑する。

「向こうは、普通の服とかねぇの?」

 西洋化の現象は、インドには訪れていないのだろうか。そもそも過去の歴史を考えると、イギリスにちょっかいをかけられていたのだから、ありえない話ではないというのに。

「いえ…もちろん、普通の服もあります。ただこれは……兄の趣味で」

 郷に入れば郷に従え、だそうです。

 にこにこっ。

 本人は、さして苦にしてはいないようだが、そのおかげで彼女は逆に日本生活用の衣類を持っていない、ということになったのだ。

 どこの家でも、兄には苦労するのか。

「んじゃ、まず3階か」

 近くにエスカレータがあるので、そこに向かって歩き出す。

 流れ行くその階段に、無意識にタイミングを合わせて孝輔は足を踏み出そうとした。

 瞬間。

 ふっ。

 デパートの照明が、突然落ちた。
 同時に、エスカレータも止まる。

「うおっ」

 孝輔は、タイミングを外してよろけそうになったが、とっさのところで手すりにつかまって踏みとどまった。