「陽人、今日はよく眠るんだよ!」

最後にそんな保護者のような言葉をかけて、私とヤマタロは一緒に陽人の部屋をあとにした。

陽人のお母さんにお礼を言って、2人で家を出る。

「じゃあな。深月もゆっくり休めよ」

ヤマタロは私の頭をぽんとたたいて、エレベーターのほうへ歩き出した。

「ヤマタロ!」

私は、そんなヤマタロの後を追いかける。

「ん?」

「下まで送るよ。今日はヤマタロにもお世話になったし」

「……急いでたんじゃないの?」

「うん、だから下まで」

「その格好で寒くない?」

「大丈夫!」

ポケットの中の携帯は気になったけど、でも、ヤマタロにも言いたいことがあった。

だから、今もし“オレ”からメールが来ても、数分くらい待ってもらおう。


エレベーターを待ちながら、私は言った。

「あのね、今日はありがとう」

私の言葉に、ヤマタロは笑って答えた。

「いいえ、どういたしまして」

そんな優しい笑顔は、いつものヤマタロだ。

「あのね……。ヤマタロ、エリナにがつーんと言ってくれたじゃない? 余裕あるねって」

「あぁ……そんなこと言ったねぇ」

エレベーターが到着して、扉が開く。

ヤマタロは慣れた動作で私を先に通してくれて、後から自分も乗り込んだ。

「なんていうか、すごく嬉しかったんだ」

「そう?」

「うん。私、本当は前から慎とエリナのこと気がついてて、でも何も言えなかったのね。エリナにも言いたいことはあったのに。……だから、すっきりした。本当にありがとう」


ヤマタロは何も言わずに、笑って私の話を聞いてくれていた。